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2013年11月10日

「最後の晩餐の真実」(コリン・J・ハンフリーズ著、黒川由美訳、太田出版刊)


最後の晩餐の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)
コリン・J・ハンフリーズ
太田出版
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 昨年の新書大賞を取った「ふしぎなキリスト教」の対談者の1人である大澤真幸が「 最後の晩餐の真実」巻末の解題で、こう書いている。
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
橋爪 大三郎 大澤 真幸
講談社
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本書は、最高の探偵小説である


 新約聖書のマタイ、マルコ、ルカ、そしてヨハネの4福音書に記されたイエスの最期の週の出来事には、いくつもの食い違いがあるのは、長い間、聖書学者の間で論議を呼んできたらしい。まして、私のような"エセ"信者には理解を超える範ちゅうの話しでしかなかった。

 著者によると、オクスフォード大学のリチャード・ドーキンス元教授は、著書「神は妄想である」のなかで「福音書は太古のフイクションである」とまで断定している、という。

 そこで、聖書学者であると同時に半導体研究などの科学者である著者は、コンピューターを駆使し、過去の暦の歴史、古代エジプトや バビロニアの文献までひも解いて「磔刑や最後の晩餐に関する四福音書の記述が本当の意味では矛盾せず、一貫している」と証明してしまったのがこの本。

 著者は、解明されるべき謎を4つに分類する。

  1. 金曜の磔刑の前々日である水曜日について、4福音書の記述がなにもないのはなぜなのか。この水曜日にイエスは何をしていたのか。

  2. マタイ、マルコ、ルカによる福音書には、最後の晩餐が 過越の食事だとはっきり書かれているのに、ヨハネ書には、過越の食事の前に行われたと明言している。なぜなのか。

  3. イエスの裁判を含め、イエスの逮捕から磔刑までに起きたと福音書に記されている出来事がすべて実際にあったとみなすには、時間が足りないのではないか。

  4. 木曜の日没後に催された最後の晩餐から翌朝9時ごろの磔刑までに行われた出来事がすべて事実とすれば、イエスの裁判は夜に執り行われることになる。しかし、死刑執行に関するユダヤの律法では、夜に裁判を行うことは禁じられている。イエスの裁判がユダヤ教の法的手続きを明らかに無視して行われた理由が不明だ。

 この4つの謎解きのための各章の最後に簡単「まとめ」が書かれてあり、私のようなせっかち、素人人間にはありがたい。

イエスが西暦三三年四月三日、金曜日の午後三時に死去したことは、磔刑の日付に関するすべての証拠によって裏付けられた。この日は 〈ユダヤ暦〉では二サン十四日」(二サンはユダヤ暦の第一の月で、現在の暦の三月から四月に当たる)


磔刑の日からおよそ七週間後、五旬祭の日の演説でペテロは、・・・(イエスが昇天した時)『太陽が暗くなり、月が血のように赤くなった』(新約聖書・ 使徒言行録2章)と述べた。・・・(太陽が暗くなった)現象はおそらく、 ハムシンと呼ばれる砂嵐によって起きたのだろう。・・・『月が血のように赤くなった』というのは月食の様子を表現したもの。・・・天文学的計算の結果、西暦三三年四月三日の金曜日にエルサレムで月食が見えたことが明らかになった。磔刑の日は、二つの別個に独立した手法で導き出された


共観福音書 (マタイ、マルコ、ルカ伝)では、一日が日の出とともに始まる〈捕囚前の暦〉(バビロンの捕囚以前の古代イスラエルで使われていた太陰暦)に従っているので、最後の晩餐が過越の食事とされている。それに対してヨハネ書では、一日が日没後に始まる〈公式のユダヤ暦〉が使われ、最後の晩餐もイエスの裁判も磔刑も、すべて公式の過越の食事が行われる前に起きたことが記述される


 つまり、最初に著者があげた四つの謎の二つ目。4福音書の記述の違いは、用いた暦の違いであることが分かったのだ。

 この春、 「イスタンブル」に旅行した際、とっくに終わっているはずの 復活祭前日の祝いがギリシャ正教の寺院で祝っているのを見てびっくりしたが、これはギリシャ正教が世界で使われている 〈グレゴリオ暦〉ではなく、 〈ユリウス暦〉に基づいて祝っていることもこの本で知った。

以前に読んだ 冲方丁の「天地明察」でも記載されていた暦の世界の深さに思いをいたした。

 話しがわきにそれた。表題書はさらに、天文物理学者の助力を得て、1世紀の〈公式のユダヤ暦〉と〈捕囚前のユダヤ暦〉を再現、それをもとに詳細な解明を続ける。

福音書を詳しく分析することで、最後の晩餐は水曜日の夜に催され、ユダヤの最高法院によるイエスの本裁判は木曜の日中に行われ、その後、金曜の夜明けに最高法院による二回目の短い裁判が開かれてイエスの死刑が確定したことがわかった


磔刑があった年、〈捕囚前の暦〉では最後の晩餐は水曜日だった。最後の晩餐が行われたのが水曜で、磔刑が金曜だったとすれば、最後の晩餐から磔刑までのあいだに起きたと福音書に記されているすべての出来事が、時間の流れのなかにしっかり収まることがわかるだろう


 それでは、なぜイエスは〈捕囚前の暦〉を使ったのだろうか。

イエスは、 「出エジプト記」に書かれた最初の過越祭と同じ記念日に、最後の晩餐を真正なる過越の食事会として開いた。そうすることで、自分自身を新たなモーセと位置づけ、新たな契約を結び、神の民を解放しようとした。イエスは〈公式のユダヤ暦〉で二サン一四日の午後三時ごろ、過越の子羊が屠られた時刻に絶命し、地震を過越のいけにえと重ね合わせた。こうした見事な象徴的行動も歴史上の出来事に基づいたものだと言える


 「愛」を説いているキリスト教が、「律法」を重んじるあまりに厳しく人々に接する神を表現する「旧約聖書」をなぜ大切にする必要があるのか。

 長年、持ち続けてきた疑問の一部が氷解したように感じた。

2010年5月20日

読書日記「天地明察」(冲方 丁著、角川書店刊)


天地明察
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冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
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おすすめ度の平均: 4.5
4 水戸のご老公から保科正之、関孝和の和算も登場!
5 数学萌え!天文学萌え!の江戸男子
3 宣伝の力は忘れて読んでください
4 暦と数学
5 夢中の人、天を掴む


 こんなにおもしろいエンタテーメントを読むのは、久しぶりのような気がする。
 474ページを一気に読み進み、読了が近くなったのがおしくなって、読むペースを落としたり、序章を読み返したり、巻末の参考文献に目を凝らしたり・・・。残念ながら、この本には著者の「あとがき」はない。

 代わりに、この本を紹介する角川書店のWEBページで著者自身が著書のあらすじなどを語る動画コーナを見つけた。

 (江戸時代)将軍・家綱の治世の時代、碁所(碁の指南役)の家に生まれ、江戸城に出仕する渋川春海 (安井算哲)が数学や天文にも興味を持ち、いつしか日本独自の暦を作るという大願を持つ。
時の権力者たち(保科正之徳川光圀ら)も支援を惜しまない。
 生涯ひたすら挫折を繰り返しながら課題を乗り越え、最後の最後に(大願を)達成する。人間、これほど挫折を続けながらでも、夢を追い続けることができるのです。
 「日本人独自の信仰、感性の底には、暦というものがあるのではないか」。そう思ったのが、渋川春海を取り上げた理由だという。

 本の帯封に、いくつかの読後感が載っている。
 「『こういう生き方って、いいよね』という率直で朗らかなロールモデルの提示」(内田樹・神戸女学院大学教授)
 「この小説を読んで、学問って」最大のエンターテイメントだと思った」(TBSテレビ「王様のブランチ」ディレクター)


 渋川春海の暦への興味は、800年以上も使われてきた宣明暦が、実際の1年の観測より2日も誤差を生じていたことを知ったことから始まる。
 そして保科正之の支持で、改暦事業に着手、中国・元の時代に作られた授時歴の採用に動くが、朝廷から「授時歴は不吉」と一蹴される。

 挫折のなかで春海は妙案を思い付く。
 「勝負だ。宣明暦と授時歴を、万人の前で勝負させるのだ」


 3年間にわたって、2つの暦が予想した日蝕と月蝕の日時が正しいかどうかを公開していく。宣明暦は次々と予測をはずし、改暦の機運が盛り上がった矢先、悪夢が起こる。
 授時歴が、日蝕の予報を外した。・・・改暦の機運は消滅した。


 失意のなかで、和算(数学)の権威、関孝和に叱責される。
 「よもや、授時歴そのものが誤っているとは、思いもよらなかったと、そう言うかツ!」


   中国と日本の緯度の差から、授時歴をそのまま使うと、若干の誤差が生まれていたのだ。
春海が考案した、わが国初の暦、大和歴(後に貞享歴と改称)が、誕生した瞬間だった。

 江戸時代、算術の塾で互いに考え出した問題を張り出し、解答が正しければ「明察」と作者が書き込む風習があった、という。「ご明察」の明察である。

 2010年本屋大賞第1位。第31回吉川英治文学新人賞受賞作品。

▽最近読んだ、その他の本
  • 「四十九日のレシピ」(伊吹有喜著、ポプラ社刊)  2010年本屋大賞受賞作品第2位。同じく出版社のWEBページにあるあらすじを引用させてもらう。
     熱田家の母・乙美が亡くなった。
     気力を失った父・良平のもとを訪れたのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子・井本。
     乙美の教え子だったという彼女は、生前の母に頼まれて、四十九日までのあいだ家事などを請け負うと言う。
     彼女は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を、良平に伝えにきたのだった。

     スイスイと流れるように読んでしまう不思議な文体だ。でも、なんだか物足りないのは、書かれているレシピが少ないせいだろうか。食いしん坊!
     産経新聞のWEBページでは、執筆のきっかけについて、こう語っている。
     「最近は、自分の葬儀のやり方を、生きているうちに自らプロデュースして書き残す人が増えてきていると聞いたのと、レシピという言葉には料理の作り方のほかに処方箋(せん)という意味があるのを知って」タイトルがひらめいた。

     なるほど、この本は「死」について考えるものでもあるのだ。最近、そんなたぐいの著書を読む機会が多くなったような気がする。


  • 「青春は硝煙とともに消えて ある戦没画学生の肖像」(木村亨著、幻冬舎ルネッサンス刊)
     図書館ボランティアでカウンターに座っていて、返されてきた本の題名を見て「無言館の話ですか」と、思わず聞いてしまった。
     無言館にも遺作が残されている戦没画学生、久保克彦。25歳で戦死した短い一生を甥の著者が自費出版した。
          
           俺は、死にたくねえ
           俺は、絵が描きてえ
           俺は、ペンを捨てたくねえ

    東京西荻窪の姉の家で悲痛なうめき声を漏らしながら、描いた東京芸術大学の卒業作品「図案対象」(その年度の最優秀作品として東京藝大が買い上げ)を描きあげるまでが主軸になっている。
    生き残る可能性があった航空隊行きを断り、一番死と近かった中国の第一線に見習い士官として出征していった達観の死。ここまで若者を追い詰めた歴史の非情さ。


  • 「クラウド時代と<クール革命>」(角川歴彦著、角川グループパブリッシンング)

     これからのネット社会の中心になるといわれる「クラウド・コンピューティング」の時代に向けて、これからの日本は「GDPならぬ、GNC(グロス・ナショナル・クール)に優れた国になるべきだ」というのが、著者の主張。
     「クール」とは、洗練されたかっこよさ。NHK衛星放送の人気番組「クール・ジャパン」の受け売りかと思ったが、そうでもないらしい。
     江戸時代の浮世絵・屏風・絵巻物から現代のマンガ、アニメ、ゲーム、ファッションに加えて日常生活に根付いている回転寿司や日本食など・・・。独自文化の数々が混然一体となり、「クール・ジャパン」現象と映る。

     「ポップ・カルチャー」「サブ・カルチャー」で、落ちる一方と言われる日本の国力が維持されるのなら、それはそれでけっこうなことだとおもいながら・・・。眉につばをつけて読み流す。


  • 「人生、しょせん気晴らし」(中島義道著、文藝春秋)
     図書館の司書ボランティアで時々コンビを組むNさんから「かわった人の本ですよ」と聞かされ、思わず借りてしまった。
     「戦う哲学者」という異名を持つ著者は、かなり変人のようだ。
     ただ、著書に書かれた「半隠遁の思想」なんかは、現在の私の気分に合う(こちらは"全隠遁だが・・・)。
     「人生相談」という気晴らし、という章がおもしろい。
     「母親の介護で、自分自身が壊れてしまいそうです。父、兄、弟がいますが、まったく面倒をみません」という質問の答えは「『いい人』をやめて、『ろくでなし』になりなさい」
     ご明察!気分爽快になること、間違いなし。

    四十九日のレシピ
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    5 久しぶりにいい本に出会いました
    4 思わず、自分の言動と重ね合わせてしまいました。
    5 感想
    5 泣きました。
    5 心が温まる作品。

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    おすすめ度の平均: 3.5
    4 期待しないで読んだら力作なのでびっくりしました
    4 クラウドに遅れている日本への警鐘
    3 勉強したことをまとめただけ
    2 いったいなにが言いたいの?
    3 日本版「クラウド」の必要性を説くが

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    中島 義道
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    5 自分に逃げないためのエッセイ集
    5 本当にその通りです